急性期を乗り越え、少しずつエネルギーが戻ってきたら訪れるのが「準備期」です。
心の準備が整ったこの時期は、
適応障害の根本的な原因と向き合い、今後の再発を防ぐ大切なステップになります。
なぜ「準備期」が必要なのか
急性期にストレス因子から距離を置くことで、表面的には症状が落ち着いてくることがあります。
しかし、それだけで「完全に回復した」とは言えません。
いったん回復しても、将来また同じような状況が重なれば、再発してしまう可能性があります。
だからこそ、
この時期に「なぜ適応障害が起きたのか」を振り返り、原因を分析することが
根本治療と再発予防につながります。
具体的には、次の3つを行います。
- ストレス体験の振り返り→ストレス因子の整理
- 環境調整
- ストレス耐性(レジリエンス)の向上
ストレス体験と向き合うこと自体がエネルギーを消耗します。
無理をせず、自分の心の状態をよく観察しながら
準備ができたタイミングで少しずつ取り組んでいきましょう。
① ストレス体験の振り返り
まずは今回のストレス体験を振り返り、整理することから始めます。
- 発症のきっかけとなった直接的なストレス因子は何だったか
- 間接的なストレス因子はないか
- 環境要因は何だったか
例:多忙、人間関係の悩み など - 個人要因はどうか
例:まじめ、完璧主義の傾向 など
このようにストレス因子を正しく特定することが最重要ポイントです。
そして、ストレス要因を①環境要因、②個人要因に分けてさらに整理します。

一見ひとつの出来事が原因にみえても、
実は複数のストレス要因の積み重ねがあった、ということもあります。
また、自分で思っていたのと別に根本的な原因があったということもあり得ます。
適応障害を発症した知人は、
仕事が原因と思っていたけれど、実は夫婦関係が原因だったと気づき、最終的に離婚しました。
じっくりと振り返って分析しましょう。
②環境調整
環境要因は、職場環境や人間関係などの外的ストレスをさします。
取り除く、あるいは改善できるかどうか検討します(=環境調整)。
例えば、下記のような対応を考えます。
- 長時間労働が原因 →復職にあたって業務量の見直しをする
- 人間関係が原因 →できるかぎり距離を取る
ただし、環境要因については自分のコントロールが及ぶものとそうでないものがあります。
完全の取り除けるのか、取り除けないならどこまで改善できるか、どこまでなら許容できそうか
検討が必要です。
一方、個人要因はもともとの性格や気質、考え方が該当します。
長年付き合ってきたものであり簡単に変えられるものではありませんが、
自分のコントロールが及ぶものでもあります。
個人要因へのアプローチは、次の『③ストレス耐性(レジリエンス)の向上』で言及します。
③ストレス耐性(レジリエンス)の向上
振り返りと並行して大切なのが、ストレスに負けない土台づくりです。
ストレスを受けても「まだ余力がある」「気持ちに余裕がある」状態を保つことが、再発を防ぐ鍵になります。
健康の基盤を整える
- バランスの良い食事
- 十分な睡眠
- 適度な運動
休養期に乱れがちだった生活リズムを戻していきます。
心と身体はつながっている、という言葉は事実で
身体が健康であることが精神的な健康につながります。

記録して自分を客観視する
- 生活リズムを記録する
- 体調スコアを記録する
- 感謝日記をつける
まず、出来事や自分の体調について日記をつけることをおすすめします。
例えば、起床時間、就寝時間、食事内容、日中やったことなどを記録します。
また、「体調スコア」をつけるのもおすすめです。
想像できる一番悪い状態を0、一番元気な状態を10としたときに、今日はいくつかな?とつけてみます。
自分の状態を客観視できますし
時間とともに体調が改善していることを実感できるので、おすすめです。

考え方のクセを修正する(=個人要因の解消)
- 自分がストレスを受けやすい性格かどうかを内省する
- 幼少期のつらい体験や親からの価値観(ブレインロック)を振り返る
- 認知行動療法の考え方を取り入れる
「①ストレス体験の振り返り」で特定した個人要因へのアプローチとなります。
環境を整えるだけでなく、自分自身の“考え方のクセ”を見直すことで、再発を防ぎやすくなります。
まず、自分の性格を見つめ直すことは重要です。
真面目・責任感が強い・完璧主義など
自分の傾向を振り返ることで、どんな場面でストレスを感じやすいかが見えてきます。
また、過去の記憶や親からの影響に気づくこともポイントです。
「○○しなければ」「人に迷惑をかけてはいけない」など、
無意識に染みついた価値観がストレスを増やしていることがあります。
過去を責めるのではなく、「今の自分に合っているか?」を見直すことが大切です。

認知行動療法(CBT)は、
ものごとの受け取り方や思考のクセを整えることで、ストレスとの距離を上手にとる方法です。
例えば、
- 問題を小さく分けて考える(問題解決法)
- 極端な思い込みに気づいて修正する(認知のゆがみの修正)
- 「事実」と「感情」を切り分ける
- 「コントロールできること・できないこと」を区別する
といった考え方を意識していくと、気持ちの整理がしやすくなります。
焦らず少しずつ、自分の思考パターンを客観的に見つめることが、回復の大きな一歩になります。
(※認知行動療法については、また別の記事でご紹介します。)
ストレスマネジメントの方法を確立する
- 自分なりの「ストレス解消法リスト」を作る
- 信頼できる人との会話
- マインドフルネスの実践
- 感謝日記をつける
まずおすすめなのが、「ストレス解消法リスト」の作成です。
疲れたときやストレスがたまったとき、「これをすると楽になる」というものをノートなどにリスト化します。
例えば・・・
- カフェでコーヒーを飲む
- 読書する
- ペットと戯れる …etc
事前に一覧にしておくと、いざというときに気分に合わせて選ぶことができます。
自分を癒やしてくれるものや行動を見つけ、リストアップしておきましょう。

また、家族や友人、先輩後輩など、信頼できる人間関係を持っておくことは非常に重要です。
何か悩みがあるとき、困ったときに共有するだけでも気持ちが楽になります。
自分が気づかないうちに疲労が溜まっているときも、
「最近疲れてるんじゃない?」と先に気づいてくれることもあります。
また、ストレスの有無にかかわらず心理的安全性が保たれる人間関係を持っておくことは、
心の平穏や幸福度にもつながります。

ぜひ取り入れて頂きたいのが、マインドフルネスの習慣です。
マインドフルネスとは、過去や未来ではなく「いま、この瞬間」に意識を向けることです。
頭の中が仕事や悩みでいっぱいになると、
私たちはつい「まだ起きていないこと」や「終わったこと」にとらわれてしまいます。
マインドフルネスは、そんな思考の渦からいったん離れて、心を“いま”に戻す練習です。
日常生活でも簡単に取り入れられます。
- 深呼吸に意識を向ける
- 食事の味や香りを丁寧に感じてみる
- 散歩中に風や光の感覚を味わう
短い時間でも「いま」に集中することで、心が静まり、ストレスから少し距離をとることができます。
(※マインドフルネスの詳しい実践方法は別記事でご紹介します。)

ストレスマネジメントとしてもう一つおすすめなのが、感謝日記です。
寝る前に、その日にあったうれしかったことや感謝したいことを3つほど書き出してみましょう。
たとえば、
- 「朝きちんと起きられた」
- 「お昼ごはんがおいしかった」
- 「家族にありがとうと言われた」
どんなに小さなことでもかまいません。
一日の終わりに「よかったこと」に目を向けることで、
実は自分の周りにもたくさんの良いことが起こっているのだと気づけます。
また、感謝の気持ちで一日を締めくくると、心が落ち着き、睡眠の質も上がるといわれています。
無理なく続けられる範囲で、日々の習慣にしてみてください。

心の支えになる“居場所”を増やす
- 趣味や特技に挑戦する
- スポーツや習い事を始める
- コミュニティに参加する
仕事以外にも、自分が安心していられる「居場所」や「活動の場」をいくつか持っておくことは、ストレスに強くなるための大切なポイントです。
ひとつの領域でトラブルが起きても、
他に自分を支えてくれる場所があると、心のバランスを保ちやすくなります。
もし休職前まで「仕事がすべて」だった方は、
ぜひ趣味やスポーツ、地域のコミュニティなどに少しずつ関わってみてください。
違う人間関係や環境とのふれあいが、良い気分転換になりますし、
「自分は仕事以外にも生きる場所がある」と感じられること自体がレジリエンスの源になります。

まとめ
準備期は、ただ症状を落ち着かせるだけでなく、「もう一度、自分を立て直すための時間」です。
ストレス因子を振り返り、環境を整え、自分の考え方や生活習慣を見直していく過程の中で、
少しずつ「再び社会と関わる力」や「心のしなやかさ(レジリエンス)」が育っていきます。
この時期に大切なのは、完璧を目指さないこと。
焦らず、自分のペースで、できることを一つずつ増やしていきましょう。
そして、「心の支えとなる居場所」や「安心できるつながり」を少しずつ広げていくことで、
再発を防ぐだけでなく、これからの人生をより豊かにしていくことにもつながります。
準備期を丁寧に過ごすことは、次の「実行期」への大切なステップです。
自分自身の回復力を信じて、ゆっくりと前に進んでいきましょう。


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