適応障害を正しく知る① 概要・診断基準・原因について

適応障害

『適応障害を正しく知る』シリーズの初回は、適応障害の概要・診断基準・原因についての記事となります。

医師側、患者側の両方の視点をもつ筆者が、自身の経験も交えながら、わかりやすくお伝えします。

ぜひ最後まで読んで頂けたらうれしいです。

~私の適応障害エピソード~

若手内科医として子育てをしながらフルタイム勤務中、パワハラをきっかけに適応障害を発症。8ヶ月間の休職を経て回復し、復職。

適応障害にまつわる誤解

「適応障害」という病名を聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか?

失恋した芸能人とか、叩かれた政治家がなる病気でしょ?

メンタルが弱い人がなる病気のこと?

うつ病よりも軽症なんじゃない?

こんなイメージを持っている方が多いのではないでしょうか?

かくいう私も、自分が発症するまでは、文字通り「適応障害は、環境にうまく適応できなくなって起こる病気」としか思っていませんでした。

自分が適応障害になってはじめて、病気について調べたり本を読んだりするうちに、この病気の本質はもっと深いところにあることに気がついたんです。

適応障害の本質は「ストレス因子へのとらわれ」

適応障害ってなに?

まずは、適応障害の基礎知識についてお話します。

適応障害とは、「特定のストレス因子にとらわれ、日常生活が送れないほどの心身の不調をきたす病気」です。

精神科を受診する患者における有病率は5~20%と推定され、日本でも年々増加している病気です。

わたしたちは日常的に、様々なストレスによって不安や憂うつといった感情を持ちます。
これらは正常のストレス反応で、休息をとったり気分転換をしたりすることで改善します。

一方、適応障害ではストレス因子にとらわれ、受けたダメージを解消しきれず、健常な社会生活が送れなくなってしまうほどの強い症状を認めます。

適応障害では、この「ストレス因子へのとらわれ」がキーワードとなります(後ほど詳しく説明します)。

まず、適応障害は単なるストレス反応延長ではないというポイントをおさえましょう。

一般に、適応障害はストレスが起きてから3ヶ月以内に発症し、通常は6ヶ月以内に症状が改善します(※あてはまらないケースもあります)。

診断基準からみる適応障害

最新の診断基準:ICD-11

2024年3月現在において最新の適応障害の診断基準は、2022年に世界保健機関(WHO)が発効したICD-11というものです。

ICD-11 適応障害診断基準

  1. はっきりと識別できる心理的社会的ストレス因子があり、症状がストレス因子から1ヶ月以内に出現する
  2. ストレス因子やその結果に対するとらわれがある
    (1)ストレス因子に対して過度に心配する
    (2)ストレス因子に関する苦痛な思考がくりかえし浮かぶ
    (3)ストレス因子の影響について絶えず反芻する
  3. 結果として、ストレス因子への適応に失敗し、個人、家庭、学業、仕事等の重要な生活領域に支障をきたす
  4. ほかの精神疾患(うつ病、心的外傷後ストレス障害など)の診断基準を満たさない
  5. ストレス因子からはなれることで、通常6ヶ月以内に症状の改善を認める。

適応障害を診断するうえで重要なポイントは、「ストレス因子へのとらわれ」があることです。

逆に、ストレス因子へのとらわれがない場合は、適応障害とはいえません。

従来の診断基準との違いは?

従来のDSM-5という診断基準(アメリカ精神医学会が発効)では、適応障害を「ストレス因子に対する過度なストレス反応がおきている状態」としていました。

正常なストレス反応との区別があいまいなため、「適応障害は軽症だ」、「そもそも病気ではないのは?」といった声もあり、本人の性格の問題として片付けられてしまっているケースもありました。

ICD-11では、適応障害の根本に「ストレス因子へのとらわれ」があるとし、正常ストレス反応とは明確に区別をしています。

適応障害の診断には「ストレス因子へのとらわれ」が条件

「ストレス因子へのとらわれ」とは?

ストレス因子へのとらわれとは?

ICD-11の診断基準では、以下の3つの状態が「ストレス因子へとらわれ」であるとされています(既出)。

(1)ストレス因子に対して過度に心配する
(2)ストレス因子に関する苦痛な思考がくりかえし浮かぶ
(3)ストレス因子の影響について絶えず反芻する

ストレス因子について、あるいはストレス因子にまつわるネガティブな感情や考えが、頭のなかをグルグルしている状態ともいえます。

参考にした書籍『「とらわれ」「適応障害」から自由になる本(さくら舎) 著:勝 久寿』では、「とらわれ」の状態を以下のように定義しています。

とらわれている人は、「意識がその対象から離れられなくなるだけでなく、同時に主観的な世界に没入してしまい、まわりの世界(客観的事実)が見えなくなっている」という状態だ

「とらわれ」「適応障害」から自由になる本(さくら舎)より

言い換えると、「ストレス因子によって周りが見えなくなるほど執着し、自分の世界に閉じこもり、客観的な視点から物事を見ることができない状態」となります。

なぜ「とらわれ」てしまうのか

では、とらわれてしまうメカニズムは何なのでしょうか。
なぜ、同じストレスを受けても、とらわれる人とそうでない人がいるのでしょうか。

同書では、「ストレス因子にとらわれる理由は、ストレス体験によって脳内に刻まれた感情的記憶が大きくなること」としています。


辛いかもしれませんが、過去のストレス体験を思い出してみてください。
その体験を思い出すと、「悲しいな」「不安だな」という感情も一緒に思い出されませんか?

このように私たちの脳では、正常な反応として、体験とともに感情が記憶されます

しかし、以下の条件が重なると、感情的記憶が強烈に脳内に刻まれ、「ストレス因子へのとらわれ」をもたらします。

  • ストレス自体の大きさ:悪質なパワハラ
  • 環境要因:忙しすぎるライフスタイル、相談相手がいないこと
  • 個人的要因:ストレス耐性の低さ、性格など

ストレス因子にとらわれた状態になると、脳内で何度もその出来事を追体験し、感情的記憶はどんどん大きくなっていきます。

この悪循環の過程で、ストレス因子への執着が強まり、周りのことが目に入らなくなるほど自分の世界に閉じこもってしまうのです。

この「とらわれの悪循環」が適応障害の本質であると、筆者は指摘しています。

適応障害は、ストレス因子へのとらわれから始まる悪循環によって発症する。
ストレス因子へのとらわれは、ストレスの大きさ、環境要因、個人的要因といった条件が重なると起こりうる。

ストレス因子の例

適応障害のきっかけとなるストレス因子は、多岐にわたります。
職場、家庭、学校など、日常生活のさまざまな場面で生じるイベントが発症のきっかけとなり得ます。

  • 職場:人間関係、パワハラやセクハラ、異動や転職、業務量の変化、長時間労働
  • 家庭:結婚、離婚、出産や育児、夫婦仲、義理の両親との関係、引越し、経済的問題
  • 学校:いじめ、転校、受験の失敗
  • その他:失恋、自分や家族の病気など

必ずしもネガティブな出来事だけが原因になるとは限りません。

昇進、結婚、出産、引っ越しといった一見ポジティブに見えることも、発症のきっかけになることがあります。

誰もが経験するようなライフイベントが適応障害のきっかけになり得るのです。


繰り返しになってしまいますが、適応障害の根本には「ストレス因子へのとらわれ」があります。

治療の前提として、発症のきっかけとなったストレス因子を正しく把握することが重要です。

適応障害になったワーママ女医の実例

私が適応障害になった原因を、「ストレス因子へのとらわれ」の観点から振り返ります。

私の場合、ストレス因子は1つではありませんでした。

  • 職場異動(=環境変化)
  • 上司からのパワハラ
  • 家族とのケンカ
  • 子どものイヤイヤ期

これらの複数のストレス因子が積み重なり、適応障害を発症しました。

これまでの人生で、パワハラと同じくらいの大きなストレスに遭遇したことはありましたし、家族とのケンカもしょっちゅうでした。

しかし、適応障害を発症したのは今回がはじめてです。

では、私がこれらのストレス因子にとらわれてしまったのはなぜでしょうか。

なぜ「とらわれ」てしまうのか』の項で説明したように、ストレス因子へのとらわれてしまう可能性として、以下の条件があります。

  1. ストレス自体の大きさ
  2. 環境要因(多忙なスケジュール、相談相手がいないなど)
  3. 個人的要因(ストレス耐性の低さ、性格など)

私のケースを振り返ると、これらの条件が重なっていました。

  1. ストレス自体の大きさ
    ・上司からのパワハラがエスカレートしていた
    ・家族とのケンカの内容が、子どもについてのことだった
    (「仕事をしすぎて、子どもがかわいそう」といわれる)
    ・複数のストレスが重なり、ダメージを修復できなかった
  2. 環境要因
    ・子育てをしながらのフルタイム勤務で、余裕がなかった
    ・急な業務量の増加があり、残業が続いていた
    ・パワハラについて相談できる人、相談できる時間がなかった
  3. 個人的要因
    完璧主義、責任感の強い性格で、何でもきちんとこなそうとしてしまう傾向があった
    ・自分を責めてしまう傾向が強かった


結果としてストレス因子にとらわれ、頭のなかがストレス因子のことでいっぱいの状態になってしまったんです。

  • パワハラ上司からいわれた「全然ダメ」、家族からいわれた「子どもがかわいそう」という言葉が脳内を反芻する
  • 上司から叱責されたときの映像が、脳内で繰り返し再生される
  • 自分の努力・能力が足りていなかったんだ、と自分を責め続ける
  • 母親失格だ、自分は価値がない存在だ、というネガティブな考えが巡る 
  • 周囲から何を言われても、自己否定の思考を訂正できない


ストレス因子がひとつでも少なかったら・・・
仕事量がもっと少なく、心に余裕があれば・・・
まわりに相談できるひとがいれば・・・
「私は十分頑張ってる!えらい!」と自分を認めてあげられていれば・・・


どれか一つでも違っていたら、適応障害にならなかったかもしれません。

ストレス因子に遭遇した時期や周りの環境など、様々な条件がかみ合った結果としてストレスへの適応に失敗し、適応障害の発症に至ったのです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

この記事では、適応障害の本質は「ストレス因子へのとらわれ」であること、日常生活のさまざまなイベントがストレス因子になり得ることをお話しました。

また、ストレス因子へのとらわれは、ストレス因子自体の大きさ、環境的因子、個人的要因などの条件が重なることではじまり、適応障害は単なるストレス反応とは明確に異なった性質であることもお話しました。

次の記事では、「適応障害の症状」についてお話したいと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました